先輩からの声
先輩からの声
坂下理紗 さん ( 東京理科大学理学部第一部物理学科・学部4年) 物心ついた頃から毎晩父にビッグバンの話を聞かされて育ったため、自然に物理学の探求を志すようになりました。また、中学生の頃に出会った小説で自然観に大きな影響を受けたこともきっかけの一つだと思います。 物理学と芸術というと、一見して対極にある分野と思えるかもしれませんが、自然を人間流に表現するという点で非常に似ています。物理学科 では、自然現象を数学的に記述する方法について学びます。その過程ではまさに先人たちの思考過程を追うことができ、自分の哲学観が覆されることもしばしば あります。私は量子力学を学んだとき、その背景にある自然観や数学的な美しさに大変感銘を受けました。将来は量子情報という分野に進み、量子力学の更なる 探求や応用といった研究に従事したいと考えています。 私自身、まだ研究者の卵といった状態なのであまり大きなことは言えませんが、研究職は女性が生涯をかけて続けることのできる貴重な職業の 一つではないでしょうか。これから理系に進もうとされている方は、まず自分が本当にやりたいと思う分野を見つけ、それに情熱をかたむけることが重要だと思 います。そして誰かを愛するように、その学問を愛してあげて下さい。そうすれば自ずと道は開けると思います。 |
中浜優さん (東京大学物理学専攻・大学院生)
"物質の根源はなんだろう"と小さいころから興味を持っており、この疑問の答えに少しでも近づこうと、 物質の最小単位である素粒子を実験的に研究する高エネルギー素粒子実験を専攻しています。 高エネルギー加速器研究機構(KEK)で行われているBelle実験に参加していて、世界中から集まった約400名の研究者の中の1人として研究をしています。 私は測定装置の開発から測定データの解析まで行っていますが、 その中で女性だということを意識したことはありません。性別よりも、困難にぶつかっても根気強く研究を続けていくことが大切だと思います。 また、困難が解決したときは非常に充実感があります。 物理学は素粒子から宇宙まで扱う対象のスケールが広く、基礎研究から応用研究まで幅広く、多種多様な研究が行われています。 物理学に興味を持っていて、根気がある方は、 ぜひ物理学を専攻して楽しい研究生活を送っていただきたいと思います。 |
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水谷佳奈さん(学習院大学物理学専攻・博士前期課程2年) ●理系を選択したきっかけ ●現在の研究 ●後輩へのメッセージ |
野尻美保子さん(高エネルギー加速器研究機構・助教授) ●研究について 「自分の研究のどこが面白いか思っているか」というのは、なかなか説明しにくいものです。特に日々熱心にやっている研究ほど、短絡的で個人的なところに動機があるようです。かえって、一般の人に自分の分野を説明するときに、新鮮な驚きを感じたり、 煮詰まっている自分を発見する時があります。 先日一般向けの講演で、素粒子の種類について説明をしていたときに、「ニュートリノってとても軽いのはわかりましたが、大きさは小さいんでしょうか」、とあまり考えたことのないような質問があってドキッとしました。 我々が感じるものの大きさは原子核の周りをまわる電子がお互いに反発する電気の力からくるものです。電荷を持たないニュートリノの大きさはそれよりずっと小さくなります。 ニュートリノの大きさを決めているのは、「弱い力」という電気の力とは違う力です。 ものを細かく分解していったらどこまで小さくなるだろう、私たちは何からできているんだろうというギリシャ時代からの疑問に、科学が答えられるようになったのは、ここ100年ほどのことですが、専門家の世界を離れたときにその内容はうまく伝わっているでしょうか。 素粒子の分野では LHCという巨大な実験が2007年から始まり、新しい素粒子や、力が発見されることが期待されています。その成果をわかりやすく伝えていければと思います。 ●生活について 研究の仕事と、家庭生活の間のバランスは微妙です。 子供ができて、成長するのをみるのは楽しみですが、 確実に研究に使える時間も自分の時間も減っていきます。 若くて研究一本の方と競争するためには「自分の ための戦略」についてより深く考えることが必要になります。 ネット時代になると、「はやりの研究テーマ」に研究者が集中します。皆が興味をもっているテーマ で一番良い成果をあげるというのも一つのやり方ですが、 実はそれほど効率は良くありません。 自分の時間がとれないときは、あえて流行から離れて「スロウなテーマ」を探してみてもいいかもしれません。細かい研究の優劣を競うよりは、自分の世界をそだてていくほうが、長期的には得であるように思います。 近年、大学評価が頻繁に行われるようになりました。 論文数や、引用件数のような一見客観的な数値指標が幅をきかすようになり、研究上「自分だけの場」を確保することは、より難しくなっているように思いま す。出産、育児で研究が中断される女性の問題として、このような評価が問題になることがありますが、長期的な視点で、研究を育てていくことが、すべての研 究者にとって重要だと思っています。 |
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丹治はるか(PhD student, Department of Physics, Graduate School of Arts and Sciences, Harvard University) 私が物理学を専攻したきっかけは、大学2年生のときの進学ガイダンスでした。物理という学問には以前から漠然と興味を持っていました。しかし、そ れまでに学んだ範囲では具体的な研究内容が見えにくく、専門として研究したいとまでは思えませんでした。当時の私は実学により強い興味を持っており、機械 工学科に進学しようと思っていました。ところが、たまたま覗いてみた物理学科のガイダンスで最新の研究内容についての話を聞き、考えが大きく変わりまし た。それまで想像すらしなかった不思議な現象が、ナノメートルのスケールで起きていて、しかもその多くが物理学の理論(主に量子力学)できれいに説明され るということを知って感動を覚えたからです。物理の奥深さと限りない応用性に強く惹かれ、物理学科を志望することに決めました。 現在私は、"原子物理学"と呼ばれる分野で、レーザー光で冷却(運動を抑制)された原子を使って、光子をたった一つだけ発生させる、とい う実験をしています。この研究(そして多くの物理学の研究)に密接に関わる量子力学は、日常的な感覚ではなかなか理解しにくく、ともすると疑ってかかりた くなってしまいます。しかし、現象が実験結果として目の前に現れてくると、これが私たちの暮らしている世界を的確に説明している理論体系なのだと実感させ られます。現象と理論の結びつきを直接目にすることができるというのが実験物理学の醍醐味の一つだと思います。日々蓄積される新しいデータを読み解いてい く過程は、推理小説の謎解きにも似ていてわくわくします。 これは一例に過ぎませんが、思いがけないところで面白いことに出会えることがあるものです。あまり自分の行く先を限定しすぎずに、常にいろいろな方向にアンテナを向けて、さまざまな可能性を探ってみることをお勧めします。 |