男性から見た男女共同参画

男性から見た男女共同参画

中大物理 田口善弘Gender Equality Bureau from a male point of viewsDept. Phys. Chuo Uinv., Y-h. Taguchi


共働き男性から見た男女共同参画

私の場合は妻もフルタイムの職を持っているために、女性物理学者が被っている不利な点のいくつかを共有していると思われる。無論、「勝手なことを言 うな。自分の無能を共働きのせいにするな」という意見もあるだろうことは想像に難くない。が、あくまで一例に過ぎないと思って読んで頂ければ幸いである。

・大学の運営は研究室単位なので育児・家事に時間を割こうとすると結果的に学生にしわ寄せが行ってしまう。保育園のお迎えなどしなくてはいけない時には16:00には帰らなくてはいけなかったりする。

・講義などは休まないようになんとか出来ても、子どもが何日も病気で休めば、何日かは大学を休まざるを得ない。

・保育園の送りか迎えかどちらかを担当しなくてはいけないので、長期の出張はなかなかしにくい。私が不在の間、妻が送りと迎えをしなくてはならない からだ。妻の通常の勤務体系は送りも迎えも両方するという前堤で組まれてはいないので、仕事が滞ってしまう。妻の勤務先はフレックスタイム制をとってはい るが、送りと迎えをする日が連続すれば仕事が滞り、あとで取り返さなくてはならない。結果的に出張から戻って来た後、出張期間と同じ長さだけ僕の方が送り と、迎えをしなくてはいけなくなる。つまり、出張すると言うことは単にその期間が無駄になると言う以上の時間的ロスを引き起こしてしまう。

・別居を覚悟でなければ、離れたところに就職することはできない。結果的にポストは限られることになる。

要するに大学自体、教員はすべての時間を研究教育につぎこむという前堤で動いているので、家事・育児と両立できない。システム的に何とかして欲しい様に思う。

共働きでない男性物理学者にとっての意味

前述の様なことは、あくまで、個人的な問題に過ぎない。別居覚悟で職を得ている方々もいれば、妻が大学教授であっても、育児を一手に引き受けてい て、男性は普通にやっている方もおられるし、長期の海外出張もこなしている方もいくらでもいるだろう。つまり、前述の様なことは「おまえの勝手」と言われ ればそうなのだが、本当にそれだけで終って良いものだろうか?共働きではない男性物理学者にとっては意味の無いことだろうか?

現実には、共働きかどうかという以外の部分でも、研究環境とは多様なものである。教授・助教授・助手・技官と揃った「フルセット」の環境で研究している方々もおられれば卒研生もいない状態で研究をされている方々もいるだろう。

上記で述べたように、男女共同参画という枠組みは、現在の男女の置かれた状況の差を制度的に埋めると言う観点からの議論ではあるが、逆に研究者のあ りかたの多様度を認める制度的な担保であるとも言える。例えば、多くの大学ではサバティカルの制度が無かったり、あるいはあっても使えないような状況で あったりすると思われるが、「育児でN年間育児休職できる」という体制はそのまま「N年間サバティカルをとれる」という体制につながりうる。あるいは、育 児休職中に大学院生の面倒を自宅から見られるように補助スタッフをつけるというシステムが出来れば、サバティカル中の院生指導の体制としても活用できるだ ろう。その他、サバティカル中は研究費が使用/申請できない、雇用したポスドクが解雇されるという様な問題も「育児休職中」に発生する問題と同じような構 造を持っている。

つまるところ、現在のシステムは研究者が日常的に「そこ」にいて、陣頭指揮をとっているということを前堤にしすぎている。大学の研究室と言うシステ ムの性質上、ある程度仕方ない部分もあるのだが、実際には、そこまで極端な仮定をしなくてもよい部分は多くあり、(例えば、講義は特定教員がいなくなると 休講になるというシステムもやや前近代的かも知れない。大学院レベルの高度な内容ならいざしらず、学部の入門レベルの内容なら、ある程度「手の空いている 人」が出来るようなシステムにして行くべきかも知れない。実際、企業などでの「プレゼンテーション」はそうなっているのであり、重要なプレゼンテーション ならばプレゼンターが休んだら会議は中止、などというバカなシステムは普通はとらないのではなかろうか)この様な思考の転換により、研究環境をよくしてい くことと、男女共同参画を推進することは必ずしも矛盾しないと思うのだが、いかがだろうか?

おわりに

企業から大学に転じられたある研究者の方が言っておられたのだが「大学は企業に比べると時間の自由はきかないが、とって来た予算は自由に使える。これは一 般の常識と逆だが真実だ」ということである。我々もいままで当然と思って来たことを転換して行かなくてはいけないのかも知れない。

(日本物理学会第58回年次大会講演概要集より 30pZN-4に基き見出しをつけた。)