男女共同参画に関する物理学会の取り組み

祝 男女共同参画学協会連絡会発足

男女共同参画に関する日本物理学会の取り組み

2002年10月7日
日本物理学会(文責:坂東、北原)

I.これまでの経緯

1.   学会誌上での取り組み(1)「談話室」欄での特集記事の取り組み(1982)
  日本物理学会の女性研究者に関する取り組みは、1982年、物理学会誌に「女性研究者問題」の企画として談話室欄に特集が掲載されたのが最初であろ う。ちなみに、米国では1960年代の公民権運動を通じてマイノリティの積極的雇用の動きを受けて、アメリカ物理学会には、"Committee on the Status of Women in Physics"が1970年代に誕生しており、その委員会は、1981年にパンフレット"Wanted: more Women in Science and Technology" を発行し、少女たちに物理の魅力を訴えた。
2.  学会誌上での取り組み(2)女性研究者をテーマにした記事の連載(2001)
  会誌56(2001)No.3,pp.200-202もっと女性研究者に会いたい;No.4,pp.269-271「物理学会託児室をめぐって」
3.  大会会場での託児所の設置(2000年秋から)  
   2000年秋には、新潟大学で開催された年次大会で初めて託児室を設置。それ以降春秋の大会には継続的に託児所を設置し続けている。
4.  IUPAP国際会議「Women in Physics」のための
                     「パリ会議準備委員会」発足(2000年秋)

  物理関係の国際組織であるIUPAP(International Union of Pure and Applied Physics)が、2002年3月にパリで開催した国際会議「Women in Physics」(パリ会議と略称)に代表を送るよう2000年9月に日本物理学会と応用物理学会に要請してきた。これをきっかけに、日本物理学会は、そ の準備のため「パリ会議準備委員会」(委員長:北原和夫)を発足させた。
5.  研究環境に関する全会員へのアンケート調査実施(2001年9?11月)
  
パリ会議準備委員会では、「女性研究者問題」から「男女共同参画問題」と視点を広げた取り組みとして、女性研究者の環境を改善することを視野 に入れつつ、研究者の研究環境の改善、そして研究の活性化を図るため、会員の研究環境全般にわたる調査を企画し、2001年9月に、会員全員を対象とした アンケート調査を実施した。
6.   アンケート分析ワーキンググループの発足(2001年9月)
  「日本物理学会会員の状況に関するアンケート」に寄せられた回答に対して、まずパリ会議に向けて女性研究者に焦点をあてた分析を行うこととなり、このための「アンケート分析ワーキンググループ」が組織された。
7.   アンケート呼びかけ等HP開設とシンポジウム開催(2001年9-10月)
  同時に、この問題に関する広報のためのホームページを開設することとなり、まずはアンケート調査のための記事を掲載した。さらに、パリ会議に向けて 2001年秋季大会および分科会(物性関係:徳島、素粒子・宇宙線:沖縄、核物理関係:日米合同でハワイ)で「パリ会議準備」のためのシンポジウムを開催 した。こうして2619人の日本物理学会会員からの回答を得た(回収率13%)。
8.   アンケート分析ワーキンググループの活動(2001年11月?2002年3月)
  分析ワーキンググループは、11月末から集計を開始し、回を重ねて検討を行い、分析結果をまとめた。ちなみに、このアンケート調査は応用物理学会との 合同企画で実施したものである。従ってアンケート項目は共通の部分もあるが、お互いの学会の状況を勘案し、異なった内容を含んでいる。
9.   分析結果の概要
  日本物理学会は、このパリ会議に向けて、物理研究者の研究環境、教育環境、家庭環境など多面的な視点から、物理学会会員のアンケート調査分析を進めた が、この結果から、女性研究者のかかえている問題は、むしろ現代の学術政策のそれと同じ根源であること、特に、学術政策・研究者雇用政策の矛盾は、女性研 究者により敏感に反映されているという事実を知った。日本の今後の学術政策が大きく転換する現時点において、このような視点から大学・研究機関のあり方を 見据えることは、より重要な課題となっている。
10.   IUPAP国際会議「Women in Physics」への参加(2002年3月)
  
2002年3月のパリ会議に、世界各国から集まった400名近くの物理研究者は、研究・教育の場における男女共同参画のあり方について、真剣な議論をおこ なった。日本からも物理学会と応用物理学会がこの会議に参加し、日本の実情を報告した。ここで採択された決議では、女性科学者の更なる参画を促すために、 女性物理学者のライフサイクルと研究生活の調和を謳っており、さまざまな提言がなされている。会議の記録はAIP(American Institute of Physics)のHP http://proceedings.aip.org/proceedings/confproceed/628.jspに掲 載されている。
11.   アンケート調査結果の学会誌上への掲載(2002年5?9月)
  
アンケート調査結果は、「日本物理学会会員アンケート」分析結果報告I 「女性研究者の研究環境」、II 「家庭と仕事」、III 「女性物理学者の研究活動」、と3回に分けて、おのおの、日本物理学会誌Vo.57(2002)No.5 pp.345-347、Vo.57(2002)No.8 pp.600-602、Vo.57(2002) No.9 pp.673-675 に概要を掲載した。
12.  アンケート分析結果、女性研究者編の刊行を予定(2002年10月?)
  会誌に掲載した報告記事は今後の討論の資料として、詳細も含めて冊子として出版する予定である。パリ会議では日本物理学会・応用物理学会、両学会のア ンケート分析結果を総合して報告したが、実態調査に基づく日本の報告は国際的な関心を集めた。アンケート調査結果について様々な質問が多数寄せられている ので、これらの要請に応えて、現在アンケート調査結果の英訳版も準備中である。
13.  パリ会議から「男女共同参画推進委員会」設立へ(2002年6月)
  
パリ会議は日本物理学会の今後の男女共同参画を促進するうえで大きな刺激を与えた。2002年3月の第57回年次大会(立命館大学びわこ・く さつキャンパス)でパリ会議とアンケート分析結果の報告を行い、その後 「男女共同参画推進委員会」を設立し、7月から引き続き男女共同参画の推進に向け て取り組むこととなった。

II.今後の取り組み予定

 以上のような経緯の中で設置された日本物理学会男女共同参画推進委員会は、パリ会議の決議を受けて、日本の実情に合わせた提言を行うことが重要であると 考え、議論を積み重ねている。当面改善すべき課題として以下のような項目があがっている。現在これらについて、本会会員をはじめ関係諸機関に呼びかけて議 論を巻き起こし、改善の努力を重ねるための資料としてとりまとめる作業を行っている。以下の課題の中には、すぐにアクションを起こせる項目もあるが、今後 議論を積み重ねて問題を整理し、修正を加えて提案する必要のある内容も含まれている。具体的に1つ1つ検討を重ね、日本物理学会として取り組める事項は学 会に、また、行政等に関わる事項はしかるべき機関や組織に提案する予定である。これらの課題は、今日集まった他の学協会とも共有できると考えている。

●大学・研究機関に向けての提案:

  1 大学・研究機関に勤務する女性研究者に対応した育児支援制度の整備
   育児休職制度・学校教職員向けの代替教員制度に対応する大学の特徴を加味したシステムづくり;育児支援システム、教育研究活動の支援システムとし て、フレキシブルに選べる育児サポートシステムの提案(1985年以後の企業の劇的な改善に比して、研究機関はむしろ遅れた状況であることが今回の調査で 判明した) 。
  2 人事採用に対する提案
   ?公募制をはじめ、より徹底した公平性・透明性・公開性を原則とする人事採用のあり方を検討するよう呼びかける。?各機関には、採用と昇進時の、性 の平等原則が貫かれていることを確認する。?保育施設、柔軟な勤務時間など家庭に優しい方策が与えられるよう提案する。?介護支援システムも考慮するよう 求める、等。
   3 人事評価システムの改善
   まず、業績を正確に評価する基準を確立する必要があるが、さらに、単に過去の業績数にとどまらない多様な評価の基準も吟味する必要がある。業績数 は、キャリア期間と研究チームの規模によって決まる部分もあり、真の研究の質と生産性を示す尺度として絶対的なものであるかどうかも検討を要する。価値の 多様性からくるメリットなどについても具体的に検討される必要がある。
   4 人事公募の年齢制限撤廃
   任用における年齢制限は、女性研究者のキャリア形成上不利となる。任用における年齢制限を廃して、研究業績あるいは研究教育能力に関する公平な審査の上で有能と認められることのみを任用の条件とする事も必要である。(late specializationとして、多様な学習の後、ある分野を専攻し境界領域等で優れた業績をあげるケースも増えている。)女性のみならず、男性も含めて年齢による制限は撤廃すべきことを提案する。
   5 女性採用枠の設定(数値目標)
   国大協は1999年、国立大学の女性教官を増やすための提言を行っている。この考えにそって、物理学分野での女性比率を点検し、分野の特徴をふまえた具体的なプランの策定を各機関に要望する。

● 学会に向けての提案:

  1 女性研究者研究支援システムの提案
   男性優位の社会で、女性研究者の研究者社会への参入の阻害要因を除くため、女性研究者のための支援資金枠の予算化を要望する。(アメリカ物理学会では、女性研究者の交流等の特別基金枠がある)。
   2 各レベルでの女性研究者を励ます組織や、リーダーになる研修制度の提案
   特に、指導者の少ないわが国では、リーダー育成のための研修に海外講師による経験交流を企画する。 また、学協会が後援する会議等においてプログラ ム委員会や招待講演者、雑誌編集者の中での女性の参画をすすめる。(アメリカ物理学会では、2003年から連続で女性の会長が誕生する)。
  3 女子学生への働きかけ
   女子生徒たちも、男子生徒たちと同様に、物理学を学ぶ機会と励ましをうけるべきである。このための広報活動・啓蒙活動を積極的に行うよう企画する。

● 政府および民間助成機関への提案:

  1 助成採用基準の公開:科学研究費助成機関は、科学全体の発展はもちろん、個人研究者の成功を促進する上で重要な役割を担っている。助成の選定の透明性と公開性。助成金獲得の基準の明確化。審査と決定機関への女性の参加。年齢制限、補助金の構造、期間などの再検討。
  2 研究助成枠の拡大の提案
   
研究費助成の申請資格を、ポスドクなど常勤以外の研究職にも拡大することの必要性を訴え議論を促す。

● 学会・研究機関・政府機関等、様々な段階での意思決定機関への女性の参加

   特に、研究費配分や研究基金の採用決定機関、人事採用委員等への女性の参加を促す必要がある。

以上