委員長挨拶 (2006)

2006年10月 男女共同参画推進委員会 委員長 田島節子

男女雇用機会均等法が施行されて20年がたち、企業における男女共同参画は、十分とは言えないまでも相当に進んだように見えます。ところが、大学の変化は 目に見えるものがありませんでした。そこには、大学や国公立研究所という研究組織特有の問題があったのです。本委員会は、その問題に取り組むために発足し ました。
 委員会発足に至るまでの経緯や、初代坂東委員長、第2代鳥養委員長のときの活動の詳細は、本ホームページをご覧ください。他学会と連携 して2万人という大規模アンケートを行い、その結果に基づいた提言をまとめ、200以上の関係機関に送付しました。その提言が政府を動かし、昨年からいく つかの施策が始まったのです。自分達の力で行政を動かすという得がたい経験をすることができたことは、今後の委員会活動に向けて大きな励みとなりました。
  さて、このように輝かしい実績のある委員会ですが、私自身は、男女共同参画という問題の"本質的な難しさ"を常に感じております。ひとつには、男女共同参 画が目指すものが、労働条件の改善といった単純な目標ではないことです。目指すところが、個々人の生き方や価値観によって異なりますし、文化や社会的背景 にも大きく依存する問題でもあります。また、建前の理念には賛成しても、個別の問題では反対に回るという行動パターンが(男性の場合に)しばしば見られま す。これは、人間が本質的に利己的なものであるということ以外に、研究効率が最優先されることから生じるものと思われます。更に、運動推進の観点での困難 さは、問題の当時者達が、この運動に関わる時間がほとんどない、ということです。このようなさまざまな困難があることの結果として、圧倒的な男性社会とい う物理コミュニテーの状況が、長い間変わらなかったのだろうと思います。
 物理学の分野だけに限りませんが、男女共同参画の推進には二つの側面が あります。一つは、女性の権利の獲得といった側面、もう一つは、社会(我々の場合物理学)の発展に寄与するという側面です。どちらも大切なはずですが、残 念ながら後者の側面が圧倒的でない限り、世の中は大きく動いてくれません。この2?3年、政府その他の機関が大きく動いた理由も、子供たちの理科ばなれ や、少子化による科学者人口の減少が深刻になったことにあります。このことが男女共同参画推進の原動力であるということに、私はおおいに不満ですが、現実 を受け止めた上で、これらの動きをうまく利用していくのが賢い方策であろうと思います。
 様々な活動を行っていく中で、つくづく感じることは、物 理の研究者は社会的存在であるということです。娘の物理学科進学に反対する親がいる、という現実をどう考えるのか。世間の無理解を嘆くだけではすみませ ん。物理の世界で多くの女性研究者が生き生きと活躍するようになることは、物理学或いは物理学者が「よきもの」として社会に認知されることに等しいのでは ないでしょうか。
 動きだしたさまざまな施策を利用しつつ、学会として何ができるか、議論を深め、現実を変える行動につなげたいと思います。どうぞよろしくご支援のほど、お願い致します。