委員長挨拶 (2020)
男女共同参画推進委員会の活動から
男女共同参画推進委員会 委員長 野中 千穂
近年,様々なところでジェンダーをキーワードにした統計が取られています.そして世界の中での日本はというと,残念ながら大抵芳しくない結果を聞くことが多いように思います.さて,2018 年の日本物理学会会員の女性比率は6.1% です.これは世界的に見ても小さな数字です.このような女性比率の現状や推移を分析し,その背景を探るために男女共同参画推進委員会では様々な取り組みを行っています.
まず,日本物理学会は男女共同参画学協会連絡会1)に加盟しており,2018年11 月から2019 年10 月まで幹事学会を務めました.10 月12 日には幹事学会として第17 回学協会シンポジウムを企画しましたが,台風直撃によりやむなく中止となってしまいました.そして,学協会連絡会では数年ごとに大規模アンケートを行い,それに基づき,提言・要望などの活動につなげています.このように様々なアンケート調査から,男女共同参画に関連したデータの蓄積があります.そのデータの一つとして若手奨励賞における女性比率をあげます.学会会員の女性は少ないので若手奨励賞の受賞者の中で女性が男性に比べて少ないというのは当然のことです.しかし,驚くことはこの受賞者における女性比率(4.5%)が,学会の40 歳以下の登壇者の女性比率(9.2%)よりも小さいことです.何と比較するかは難しいところですが,少なくとも,女性の方が若手奨励賞を受賞する割合が低い傾向があることを示唆しています.このように受賞対象者における女性比率と比べて受賞者の女性比率が小さいという事実は,この若手奨励賞に限ったことではなく,多くの賞において残念ながら存在しています.しかし,若手奨励賞という比較的若い研究者対象という賞においても,こういった現象が存在するという事実に,私は衝撃を受けました.
このアンケート調査の結果もきっかけになり,女性科学者賞として米沢富美子記念賞の設立が副会長によって提案されました.男女共同参画推進委員会はこの賞の設立に直接には関与しておりませんが,どのように賞を設計すれば良いのか,もっと踏み込んで女性に限った賞はそもそも必要なのか,といった観点からの議論を行いました.この議論は大変白熱したものとなり,委員の間を多くのメールが飛び交い,
副会長も交えた臨時委員会まで開催することになりました.
議論では様々な意見がありました.その中で特に印象的だったものをあげてみます.一つは男性と女性の「賞」に対する意識の違いです.研究のモチベーションとして,どちらかというと研究そのものや研究成果を上げることを重要視する傾向が女性にはあり,「賞」自体にそれほど固執しないのではないか,ということです.そして自己に対する評価の違いです.こういったところから,女性はそもそも「賞」に応募してこないのではないか,という意見がありました.
もう一つは母集団が限られた賞の価値とは,ということでした.2018 年の会員の女性比率は6.1%,そして残念ながら上位職になるほどその比率はどんどん小さくなってしまいます.その中での競争に意味があるのかということでした.そういったことから,委員会としてはシニアの方ではなく比較的若い方をこの賞の対象とすることを提案することになりました.
このように委員会の中に多くの議論を巻き起こした女性科学者賞ですが,設立に至りました.しかし,そもそも賞の価値はその賞の受賞者で決まると言います.第一回米沢富美子記念賞を受賞した方々の益々のご活躍を期待しております.それと同時にこの賞の存在によるインパクト,若手奨励賞の女性比率などの行く末を見ていく必要があると思っています.
次に次世代育成を紹介します.現在の会員の男女比に至った背景は,文化,教育,社会情勢とも関連しており継続した取り組みが必要です.日本物理学会は女子中高生夏の学校(夏学)や女子中高生のための関西科学塾を後援しています.夏学はNPO 法人となりこれまでのあゆみがまとめられています.2) このまとめより,夏学の参加の前後で参加者の意識が変わっていることがわかり,私はとても感動しました.
ここでは,男女共同参画推進委員会の活動の一部を述べました.しかし,アンケート調査による実際の数値が示す現状は今なお厳しいものがあります.さらに大学教育や研究活動を取り巻く社会情勢も明るいとは言えません.この委員会の活動がジェンダーという観点を超えてより良い研究環境を実現する一助につながることになればと個人的には考えております.
参考文献
1) https://www.djrenrakukai.org
2) http://natsugaku.jp/natsugaku_archive/
(日本物理学会誌75巻4号 巻頭言より)